萩市千石台の平野喜代治さん〜笑顔と黒ぼく土が育む千石台大根〜

「こんにちわ!」待ち合わせの場所に着くと畑から元気な挨拶が聞こえてきた。その方向に振り向くと一瞬「ビクッ」となってしまいそうなくらいな大柄な男性が満面の笑顔でこちらに近づいてきた。


この大柄な男性が今回の主人公になる千石台農家の平野喜代治さんである。平野さんは高校から県外へ出て農業と離れた生活をおくるはずだった。


しかし、その思いは早々に裏切られる形となる。県外に進学したのは普通科の高校。それなのに各クラスになぜか水田が割り当てられる。先生からは農家の息子だからという理由で軽作業を頼まれることもしばしば。卒業後に就いた仕事も農業とは全く関係ないこと。それなのに営業先が偶然にも農家だったりと離れるはずだった農業なのに不思議と接点がある生活だった。


そういう生活を送ることから農業から離れるどころかその真反対に農業への関心を抱くようになり「自分だったらもっと上手くできるかもしれない」と考えるようになっていく。それと離れたからこそ見えてくる農業のこともあったと言う。そのおかげで今まで近くて見えにくかった農家である親の苦労や想いもわかるようになり「それなら千石台で自分の農業をやっていきたい」と32歳でUターンを決意する。


萩市内から車を走らせること約40分。坂道を登ってたどり着くとそこには辺り一面に広がる大根畑があった。今でこそ拓けた大地だがここに至るまでには想像絶するような大変な苦労があった。開墾事業が始まったのは戦後。背丈まで伸びた雑草に覆われた荒れ果てた大地を鎌と鍬を持って人力だけで開墾していったいうから驚かされる。その祖先の人々が大変な苦労して開墾して作った大切な千石台の台地を守っていきたいと言葉を継ぐ。


千石台は溶岩が噴出した玄武岩の台地でその土は水はけの良いきめ細やかな黒ボク土と言われる黒色火山灰土。特徴としては通気性、排水性がよく、その一方で保水性にも優れている。手に取ると「サラサラ」として指の隙間から溢れる落ちることから土のきめ細かさがよくわかる。


そして千石台で野菜がより美味しく育つ自然の恵がもう一つある。それは気候である。ここは準高冷地で寒暖差が大きいため、「旨味」「栄養」を”ギュッ”と蓄えた野菜が育ちやすい。その風土で育った千石台の大根の一番の特徴は瑞々しさにあると言われる。また、収穫の時期により大根の味も「甘さ」と「辛さ」が変化する。訪れた時期は冬だったため一口かじると瑞々しさと大根特有の「辛味」が後を追うように口にひろがった。しかし、臭みも嫌なエグ味もなくサッパリとして口当たりも良かった。


千石台大根の品質と鮮度を守るために収穫時間は今でも夜7時からいっせいに漆黒の暗闇の中ヘッドライトと重機の灯を頼りにおこなわれている。一昔前では夜中0時からおこなっていたというからそのこだわりの凄さがよくわかる。


1日の収穫量は何百本という数になる。それを今でも手作業で収穫していく。もちろん機械化の話もあったそうだが「手でやるのが早い」ということからその話はなくなったそうだ。そして、収穫作業もただ「引っこ抜く」だけではなく当然大根の「良し悪し」を見分けながらおこなうわけだ。それも漆黒の暗闇の中手作業でおこなうわけだからこれまた驚きである。


収穫時の余談話を紹介させてもらいたい。まずは大根を収穫すると余分な葉を切り落とす作業がある。その時に使用する包丁は刃渡り50cmはありそうな大きな包丁。これを漆黒の闇の中ヘッドライトをつけたあの大柄な平野さんが持つから秋田県のナマハゲを彷彿させ怖かった記憶がある。もちろん一瞬はドキッとさせらるが平野さんだから絵になるとも言える。


また、収穫体験をさせてもらったときも「満点の星空」や遠くに日本海に浮かぶ「漁火」を見ることができた。もちろん作業中は見る余裕など全くなかったことは付け加えておく。


「千石台」というブランドを守るために大地と大根と向き合う日々。農薬を使うと土地が痩せてしまうことや安全性も危なくなり味も落ちてしまう。そのため有機栽培にこだわり毎年試行錯誤を重ねている。そして、「結局、一番嬉しいのは食べてくれる人の笑顔なんですよ。」と満面の笑顔で平野さんは言われる。今回のインタビューでは「千石台への優しくも熱い想い」を口にされていた。平野さんはその想いをこめて今日も黒色の台地で大根を作られている。

千石台大根は萩市内スーパーでお買い求め頂けます。それ以外のお野菜はJAあぶらんど萩などでもご購入頂けます。